
資格は確認できた。自己紹介も聞けた。それでも、注文の変更や仕事の相談に日本語で対応できるかは、まだ分からない。そんなときは、実際の仕事に近い場面を一つ用意し、相手の話を受けてどう返すかを確かめるところから始めてみてください。
質問を増やす前に、何を観察するかを決めておくと、面接後に残すメモも具体的になります。この記事では、外国人採用で日本語の会話力を確認するための質問例と、回答の見方・記録の仕方を紹介します。
JLPTと会話では、確認するものが違う
JLPTは、文字・語彙・文法の知識、読解、聴解を測る試験です。「話す」「やりとり」の能力は直接測定していません。成績書類にあるCEFR(外国語の熟達度を示す共通の枠組み)のレベル参考表示も、JLPTが測定する範囲についてのものです。JLPT公式の説明
合格した級は、学んできた日本語の力を知る材料になります。そのうえで、職場で相手に説明したり、分からない点を聞き返したりできるかは、実際の会話で確かめましょう。
これは資格と会話のどちらか一方を選ぶという話ではありません。接客の会話を確認しても、業務に必要な文書を読めるかどうかは別に確かめる必要があります。仕事で使う日本語に合わせて、確認する材料を組み合わせます。
最初に「仕事のどの会話を確かめるか」を決める
「日本語で仕事ができる人」という条件だけでは、面接で何を聞くかを決めにくくなります。まず現場の担当者と、誰と、何について、どんなやりとりをするのかを具体化してみてください。
例えば飲食店なら、「接客できるか」を、次のような会話に分けられます。
- お客様が変更した注文を聞き取り、変更後の内容を確かめる。
- 分からなかった注文の一部を、もう一度尋ねる。
- 対応に迷った内容を、店長に説明して相談する。
面接では業務知識をどこまで求めるかも決めておきます。まだ教えていない店内ルールを知らないことと、日本語で説明できないことは別です。会話力を見たい場面では、必要な設定や情報を先に渡します。
質問例:確認・説明・聞き返しを見る
以下は、面接の準備に使うための架空の場面です。採用の共通合格基準やJ-GRADEの試験問題ではありません。実際の仕事内容に合わせて調整してください。
始める前に、お互いが何の役をするかを伝え、「分からないところは聞き返して構いません」と案内します。
| 確かめたい会話 | 面接官からの問い・設定例 | 観察すること |
|---|---|---|
| 変更を確認する | 候補者は店員役、面接官はお客様役。「コーヒーを2つお願いします。やっぱり1つは紅茶に変えてください」 | 最終的な注文がコーヒー1つ・紅茶1つになったことを確かめられるか |
| 情報を整理して説明する | 候補者はスタッフ役、面接官は責任者役。「あなたは15時に来られますが、同僚は16時になります。私にこの予定を伝えてください」 | 誰が何時に来るのかを区別して伝えられるか |
| 足りない情報を尋ねる | 候補者は集合場所を知らないスタッフ役、面接官は集合を案内する同僚役。「明日の集合場所は、いつものところです」と伝える | 分からない場所について、具体的に尋ねられるか |
自己紹介の後にこうしたやりとりを加えると、用意した説明に加えて、相手の発言を受けた応答を観察できます。暗記しているかを見破るための引っかけ問題にする必要はありません。
追加で聞くなら、同じ場面の中で条件を一つ変えます。例えば注文の例なら、「すみません、紅茶は温かいものにしてください」と続け、変更を受け止めて確認できるかを見ます。
速く答えたかだけでなく、必要な情報が伝わったか、行き違いがあったときに確認し直せたかに注目してください。聞き返しが出た場合も、その回数だけでなく、何を確かめて会話を進めたのかを残します。
評価メモには、回答と面接官の支援を残す
「会話は問題なさそう」「少し不安」という感想だけでは、別の担当者が判断の根拠をたどれません。問い、実際の回答、言い直しや説明を加えたかを一緒に記録します。
先ほどの注文変更で、候補者が「コーヒー1つと、紅茶1つですね」と答えたとします。メモは次のように残せます。これも架空の例です。
| 記録項目 | メモの例 |
|---|---|
| 場面・問い | コーヒー2つのうち1つを紅茶に変更 |
| 実際の応答 | 「コーヒー1つと、紅茶1つですね」 |
| 面接官が加えた支援 | 同じ問いの繰り返し、言い換えともになし |
| 確かめられたこと | この注文変更では、変更後の品目と数量を確認できた |
| 次に確かめること | 注文内容を別のスタッフへ説明できるか |
一つの応答から、「接客全般ができる」とまで広げないのがポイントです。反対に、スタッフへの説明を試していないなら、それを「説明できない」と記録する必要もありません。まだ確かめていないこととして、次の問いに回します。
言い換えると答えられた場合は、その言い換えもメモします。「答えられた」という結果に加え、どんな伝え方ならやりとりが成立したかを、入社後の説明や指導を考える材料にできます。
担当者間で、観察点と例を共有する
複数の担当者で確認する場合は、同じ場面、問い方、観察項目を用意し、いくつかの応答例を一緒に見ておきます。「品目と数量が確認できた」と判断するのはどんな応答か、言い換えた場合はどう記録するかを話し合います。
教育現場の資料ですが、国際交流基金の『まるごと』でも、会話テストに評価の観点と達成度を示した表を使うことが、教師間の評価のずれを避ける助けになると説明されています。国際交流基金「テストと評価」Q82
採用の確認でも、担当者が日本語母語話者かどうかだけに頼るのではなく、見る項目と記録例を共有する方法を提案します。発音の印象を残すときも、「なまりがある」で終えず、どの言葉を聞き直したのか、その後に内容が伝わったかまで具体化してください。
面接での確認と、外部の会話評価を組み合わせる
自社の面接では、その職場で起こるやりとりを確かめられます。一方、社内に評価を担当する人がいない、担当者をまたいで結果を共有したい場合は、外部の会話テストも検討できます。
選ぶ際は、点数やレベルの表示だけでなく、どんな課題を行い、何を評価し、結果をどう説明するのかを確認しましょう。その内容が、自社で知りたい会話とどう関係するかを見るためです。
J-GRADEは、日本語の会話能力を判定するためのアセスメントです。人物像や採用合否を決めるものではなく、会話力を確認する材料として位置づけています。どのような結果を確認できるかは、J-GRADEのレポート例をご覧ください。導入の相談は、PLUS IMPACTのお問い合わせフォームで「J-GRADEについて」とお知らせください。
まずは、現場で必要な会話を一つ選び、質問と記録欄を準備するところから。面接後に「何となく話せそう」ではなく、「この場面で、こう確かめられた」と説明できるメモを残しましょう。
