
AIとの会話が終わった後、何を材料に日本語の力を判定するのでしょうか。J-GRADEでは、場面ごとの課題達成、録音の時間情報、使われた言葉、異なる経路で得た文字起こしを、目的に応じて分析する設計を採っています。
例えば、相手に必要な情報を伝えられたかという判断と、発話がどのくらい続いたかという計測は、別の問いに答えています。この記事では、2026年9月時点の評価設計・実装をもとに、それぞれの材料が判定にどう関わるかを紹介します。
「できたこと」と「どう話したか」は別の情報
J-GRADEでは、会話の課題をどこまで達成できたかと、話す際にどんな特徴が見られたかを分けて扱います。到達レベルは課題達成の結果から組み立て、語彙、文法の正確さ、流暢さ、やりとり、話のつながりは、会話の特徴を説明する材料にします。
こうした質的な観点は、CEFRの公式表でも分けて示されています。CEFRは外国語の熟達度を捉える共通の枠組みであり、ここでは会話を見る観点を理解するために参照します。Council of Europe「話し言葉の質的側面」
話す速さや難しい語の多さが、そのまま課題の達成になるわけではありません。ゆっくりでも相手と条件を確認できる場合と、長く話していても必要な情報を伝えていない場合を、同じ説明でまとめないための構成です。会話の特徴を単純に平均して、総合レベルを決める方式ではありません。
会話の記録を、目的に応じた材料へ分ける
仕組みを理解するため、資料の送付について相談する架空の場面を考えます。「資料は届きましたが、一部が読めません。別の形式で送ってもらえますか」と伝えたとしましょう。これは説明用の例で、J-GRADEの実際の出題や受験者の発話ではありません。
この一つの応答からも、見る対象によって異なる情報を取り出せます。次の表は設計の役割分担を示す整理で、公式尺度や実際のレポート画面ではありません。
| 評価で知りたいこと | 主に参照する材料 | 分析の役割 |
|---|---|---|
| 状況を伝え、依頼できたか | 場面の目的と相手を含む応答の記録 | 課題の達成を解釈する |
| 発話がどの程度まとまって続いたか | 録音と、言葉の時刻を対応させた情報 | 発話のまとまりを計測する |
| どんな言葉を使ったか | 文字起こしを語に分けた情報 | 語の種類や多様性を集計する |
| どのような文の形で伝えたか | 同じ応答に対応する異なる転写と文脈 | 文法の正確さを解釈する |
「何を伝えたか」は文章から読めても、「どこで間が空いたか」は、整った文章だけでは分かりません。一方、音声の時間だけを測っても、依頼が相手に伝わる内容だったかは決められません。材料に合う処理を使い分けることが、J-GRADEの評価設計の中心です。
流暢さには、録音の時間情報を使う
流暢さの分析では、録音と文字起こしを時間軸上で対応させ、休止で区切られた発話のまとまりを調べます。文字起こしに同じ一文が並んでいても、少しずつ途切れながら話したのか、ある程度まとめて話したのかを捉えるためです。
この対応づけには、音声と転写を整列する技術を使う経路があります。一般に「強制アラインメント」と呼ばれる方法で、どの言葉が録音のどの時間に当たるかを求めます。Montreal Forced Aligner公式ガイド
J-GRADEでは、得られた時間情報と転写上の長さをもとに発話のまとまりを集計し、流暢さの評価に反映します。長さには文字からの近似も含み、計測できる条件に応じて用いる方法が変わります。すべての音を常に同じ精度で測り切るという説明ではなく、文章の印象に加えて話した時間の情報を使う仕組みです。
結果を読む際も、流暢さを「急いで話すほどよい」と読み替えないことが大切です。伝える内容や相手とのやりとりと合わせて、話し方の特徴として捉えます。
語彙は、使った言葉と使い方を合わせて見る
語彙の分析では、文字起こしを語に分け、活用した形を基本形へそろえて整理します。そのうえで、使った語の種類や多様性、語彙リスト上の分布などを集計し、言葉の使い方を解釈する材料にします。
例えば、説明用の架空例として「送る」「送りました」「送ってください」が出てきた場合を考えてください。文字列としては違っても、共通する語を整理しなければ、表現の幅と活用形の違いが混ざってしまいます。まず数える対象をそろえる工程が必要です。
ただし、語の種類を数えただけで、適切に使えたかまでは確定しません。先ほどの相談なら、難しい専門語を使うことより、資料の状態と依頼内容を相手に伝えられる言葉を選んだかが読み取りたい点です。J-GRADEでは、集計した情報と会話の文脈を合わせて、語彙の特徴を説明する構成にしています。
ここで分析するのは、今回の発話に現れた言葉です。本人が知っている語をすべて測った結果や、難しい語の数だけで決まる級として読むものではありません。
文法は、異なる経路の転写を照合する
文法の正確さを見るときには、文字起こしが自然な文章になっているかだけでなく、本人がどのような形で話したかが問題になります。
J-GRADEでは、意味を読むための転写に加え、別方式の音声認識で得た転写を、同じ応答に対応させて文法判断へ渡します。質問と回答の関係を保ったまま、表記の違い、認識の違い、文法として解釈する箇所を読み分けるためです。
別経路の転写も、音声認識モデルの出力です。完全に忠実な写しとは扱わず、文法の最終的な解釈にはLLM、つまり言葉と文脈を扱うAIを使います。二つの文章の差を、そのまま誤りの個数として数える設計ではありません。
課題達成の根拠を、到達レベルへつなぐ
課題達成の評価では、場面ごとに確かめたい項目と、受験者が実際に述べた内容を対応させます。その解釈をAIが行い、項目ごとの根拠を持つ結果を、決められたルールで到達レベルへ集約する流れです。
先ほどの架空の相談なら、状況を説明したことと、相手へ依頼したことは分けて読み取れます。相手から追加の条件を示された後にも対応できたかを知りたいなら、その後のやりとりが材料になります。最初の応答だけから、まだ行っていない交渉まで達成したと広げることはできません。
実装では、その項目を確認する機会があったかという情報も扱います。質問されなかった項目と、質問されたうえで答えられなかった項目を区別するためです。聞き返しや言い換えなど、会話中に加わった支援の記録も判断材料に含めます。
このように、到達レベルと併せて、何を根拠にした結果なのかを残す設計にしています。確認できた範囲や支援条件は、結果の意味を理解するうえでも大切な情報です。
レポートは、到達レベルと特徴を行き来して読む
レポートを見るときは、まず課題で確認できたことを読み、次に会話の特徴へ目を移してみてください。到達レベルは結果の概略を知る入口になり、語彙や文法、流暢さなどの説明は、今回の会話を具体的に理解する手がかりになります。
学校なら次に練習する場面を考え、企業なら職場固有の会話を追加で確かめる材料として使えます。これは結果の活用例であり、J-GRADEが人物像や採用合否を判定するという意味ではありません。評価の対象は日本語の会話能力です。
実際の見せ方は、J-GRADEのレポート例をご覧ください。学校・企業での活用については、PLUS IMPACTのお問い合わせフォームから相談できます。レベルの表示だけでなく、その判断を支える材料を合わせて読むことが、会話評価を活用する出発点になります。


