
同じ会話を聞いても、ある先生は「伝わった」、別の先生は「文法の誤りが多い」と評価する。学習者に理由を尋ねられたとき、点数だけでは説明しにくいものです。日本語の会話評価基準をそろえるには、まず授業で達成してほしい目的を決め、何を根拠に評価するかを言葉にします。
ここでは、授業の目標から課題、ルーブリック、教師間のすり合わせ、学習者への説明までをつなぐ作り方を提案します。評価表を先に埋めるよりも、「この授業が終わったら、どんなやりとりができてほしいか」から始めましょう。
会話の目的と、表現の使い方を分けて見る
国際交流基金の教師向け教材では、会話の目的を達成したかを見る「総合的評価」と、授業の目的に応じて表現などを見る「個別的評価」を分けています。『会話の教え方』Unit 2 Part 2、5〜9ページ
この区別を授業で使うなら、「依頼の文型を正しく使った」と「相手に必要なことを頼めた」を別々に記録します。文型が正しくても必要な情報が足りなければ、依頼は終わりません。一方、助詞を間違えても、相手が内容を理解して約束できた場合があります。
どちらを重く見るかは、その授業の目標に合わせて決めます。特定の文型を練習する回なら、その使用状況を個別の欄に残す。やりとりの成立を目標にする回なら、目的を達成した根拠を先に記す。この順序を教員間で共有しておきます。
場面・役割・終わり方を決める
評価表を作る前に、学習者へ渡す課題の条件を具体化します。以下は授業設計を説明するために作った架空例です。実際の出題実績や公式のCan-do、J-GRADEの試験問題ではありません。
「学校の図書室で、借りた本の返却期限を延ばせるか相談する」という場面を考えます。学習者は本を借りた人、教師は図書室の担当者です。学習者には本の名前と希望する返却日を渡します。担当者は、希望日までの延長はできないが、その前日なら可能だと伝えます。最後に、学習者がどうするかを伝え、返却日を確かめたところで課題を終えます。
「自由に相談してください」だけでは、何を観察する課題なのかが曖昧です。この例なら、希望の伝達、相手の条件への応答、日付の確認が観察できます。教師が最初から答えを誘導してしまわないよう、担当者が伝える情報もそろえます。
ルーブリックには、観点と達成の様子を書く
ルーブリックは、評価の観点ごとに達成の様子を示す表です。国際交流基金も会話テストでの活用を説明しています。『まるごと』の教え方、Q82
次の表は、先ほどの図書室の場面だけを対象にした架空の試案です。公式尺度や妥当性を検証した評価表ではなく、CEFRやJLPTの級への換算には使いません。
| 観点 | この課題で目標を満たす様子 | 目標まで支援が必要な様子 |
|---|---|---|
| 相談の目的を達成する | 延長の希望を伝え、提示された条件への返答と返却日の確認まで行う | 希望は伝えるが、返答や返却日の確認には教師の促しが必要 |
| 必要な情報を表す | 本と希望日を、相手が特定できる言葉で伝える | どの本か、いつまでかを、教師が選択肢を出して補う必要がある |
| 相手の返答を受けて続ける | 提示された日付を受けて、承諾や別の希望を伝える | 最初の希望を繰り返すだけで、条件への返答に進めない |
この二つの欄に入らない場合は、無理に丸を付けず発話を記録します。やりとりを試みたが目的に届かなかった場合と、そもそも確認する機会がなかった場合も分けます。たとえば教師が返却日を先に確定して終えたなら、学習者自身による確認は「未観察」です。
表を細かくするだけでは判断の根拠は増えません。最初は授業の目的に必要な観点に絞り、欄の横へ実際の言葉と教師の支援を書ける余白を設けてください。
先生同士では、点数より先に根拠を照合する
すり合わせの練習では、共通の会話例を使います。各自が先に評価表へ記入し、その後で「どの発話を見てそう判断したか」を説明する進め方を提案します。
架空の会話で、学習者が「金曜日まで、できますか」と希望を伝え、担当者の「木曜日なら大丈夫です」に「木曜日ですね。わかりました」と答えたとします。ある先生が「丁寧な依頼の形が不十分」と考え、別の先生が「返却日まで確認できた」と考えても、すぐに中間の点数へまとめる必要はありません。返却日の確認は「相談の目的を達成する」欄で見ます。丁寧な依頼表現も授業の評価対象にする場合は、その観点と達成の様子を別に決めて記録します。
判断が割れたら、次の順番で確認します。
- 同じ発話と同じ教師の支援を見ているか。
- 同じ評価欄について話しているか。
- 「少し」「十分」といった言葉の解釈が違っていないか。
表の文言を直した場合は、版と変更理由を残します。授業の途中で基準を変える必要があるときは、すでに付けた評価との扱いも決めましょう。この手順による評価一致率の改善は、学校での運用を確かめるまでは約束できません。
学習者には、できたことと次の課題を返す
結果説明は、「会話はもう少しです」よりも、次の練習が分かる言葉にします。先ほどとは別に、希望は伝えられたものの、別の日への返事が止まった場合の架空例なら、「延長したい期間は伝えられました。次は、相手が別の日を示したときに、その日でよいか返事をしましょう」と返せます。
学習者自身にも、どこまでできたと思うか聞いてみます。教師と自己評価が違ったら、すぐ正誤を決めず、「自分では希望が伝わったと思った」「最後の日付が聞き取れなかった」など、振り返りの対象を確かめます。教師の観察欄と本人の振り返り欄は分けて残すと、発話の記録と本人の説明を混同せずに扱えます。
授業の評価表と外部の会話能力判定を使い分ける
授業で作った表は、扱った課題や学習目標について説明するためのものです。一場面の達成だけから、その人の日本語全体の熟達度を決める使い方は避けましょう。クラス分けに利用するなら、筆記など他の材料や、配置先の授業内容との照合も必要です。
外部の会話評価を検討するときは、学校が知りたいことと、結果として返ってくる内容が合うかを確認します。私たちが企画・開発するJ-GRADEは、日本語の会話能力を判定するためのサービスです。授業の成績やクラス配置をそのまま決定するものではありません。
J-GRADEのレポート例で結果の見せ方をご覧いただけます。学校での活用については、PLUS IMPACTのお問い合わせフォームから、評価したい場面や現在の運用をお知らせください。

