N2に合格した学習者が、窓口で希望を伝えた後、相手から別の条件を示されると返事に詰まる。授業でそんな様子が見えたら、文法を復習するべきか、会話の練習を増やすべきか、迷うのではないでしょうか。
「N2なのに話せない」とまとめてしまうと、最初の希望を伝えられたことまで見えなくなります。次に何を練習するかを決めるには、会話全体への印象を、どのやりとりで何が起きたかに置き換える必要があります。
ここでは、学校の事務室で相談する架空の場面を使い、できたことを残しながら、止まった箇所を次の練習につなげる方法を考えます。資格の結果は学習の成果として受け止め、その先で必要になる会話を具体的に確かめていきましょう。
この記事の目次を開く

JLPTの合格と、会話で確かめること
JLPTの成績が示す力と、授業で見たい会話は、分けて考えられます。JLPT公式「CEFRレベル参考表示」3(2)(3)では、測定対象は言語知識・読解・聴解であり、CEFRの参考表示にも「話す・書く」「やりとり」などの能力は含まれないと説明されています。
つまり、N2の合格や成績書類の参考表示から、ある相談をどこまで行えるかを直接判断することはできません。これは合格までの成果を否定することでも、N2合格者は会話が苦手だと決めつけることでもありません。
学習者には、「試験で確認された力に加えて、今回はこの相談を一緒に見てみましょう」と伝えられます。文法の学び直しを一式課す前に、どの部分に練習が必要なのかを、本人と同じ場面で確かめます。
「話せない」を、観察できる一場面にする
初めに、本人が使いたい会話を聞きます。「もっと話したい」なら、授業中に質問したいのか、窓口で相談したいのか。相手と目的が決まったら、会話をどこまで進めたいかも一緒に決めましょう。
以下の場面、表、発話は授業設計のための架空例です。実在の学習者の体験や公式問題、J-GRADEの出題例ではありません。
学習者は、学校の事務室で証明書の受け取り方法を相談する役です。希望する受取日と、その日に行ける時間を担当者に伝えます。担当者役の教師は、その時間には窓口が閉まっていると知らせます。学習者が別の受取方法を尋ね、どうするかを決めるところまでを課題にします。
見たいのは、希望を説明できたか、相手の条件をどう受け取ったか、不明点を尋ねたか、最後に返答したかです。希望の日を言えたなら、その先で止まっても、そこまでできたことは残します。
複数の教師で観察する場合は、会話評価の観点と記録をそろえる方法に沿って、見る箇所を共有しておくと、練習の相談にも同じ発話を使えます。
止まった箇所に合わせて、次の練習を選ぶ
「相談が終わらなかった」だけでは、何を教えるかが決まりません。希望を説明する部分で止まったのか、条件を聞いた後なのかで、追加で確かめたいことが変わります。
国際交流基金『会話の教え方』Unit 2 Part 2、5〜9ページは、会話の目的を達成したかを見る観点と、それを支える表現などを見る観点を分けています。目的に届かなかったという結果から、すぐに文法の誤りだけを探すのではなく、やりとりの途中に目を向けてみましょう。
| 観察した様子 | 追加で確かめること | 次の練習案 |
|---|---|---|
| 「証明書」とだけ伝えて、その後が続かない | 希望日や用途を別々に聞けば答えられるか | 伝える情報を整理してから、ひと続きの依頼にする |
| 窓口が閉まるという返答の後、同じ希望を繰り返す | 相手の条件を本人の言葉で確かめられるか | 聞いた条件を確認し、別案を質問する |
| 別の方法を尋ねられたが、受け取り方を決めずに終わる | 選択肢と、本人が選びたいものを把握しているか | 選択と最終確認を言葉にして会話を閉じる |
この表は架空場面に対する練習案で、困難の原因を診断する表や、効果を実証した指導法の一覧ではありません。
例えば二行目なら、本人が何を聞き取ったかを確かめる前に、「返事の表現が足りない」と決めないことです。教師が条件を言い直すと質問できたなら、「言い直し後に質問できた」と残します。その一場面から、普段の聞き取り全体まで不得意だと広げる必要はありません。
沈黙も、意欲や性格の根拠にはしません。「本人は選択肢を考えていたと説明した」「発話としては返答を確認できなかった」と、本人の説明と教師の観察を分けます。何が分かり、何がまだ分からないかを残すためです。
支援を入れた練習と、自分でできるかの確認を分ける
止まった部分が見えてきたら、練習では助けを使って構いません。証明書の例なら、「希望する日」「行ける時間」「難しい場合に尋ねたいこと」をメモしてから話す方法が考えられます。必要なら、質問を始める表現も示します。
ただし、支援を受けてできたことと、支援なしでできたことは分けて記録します。メモを見れば相談が進むなら、次はメモの一部を外して試す。どこで教師が促したかまで残すと、自分で続けられた部分を確かめられます。
助けを使って練習し、条件を残して確かめ直す- 01必要な助けを用意する情報を整理するメモや表現を使い、止まった部分を練習します。
- 02助けの一部を外して試す同じ目的の会話で、自分から続けられる部分を確かめます。
- 03次の課題へ記録を渡すできたことと促しが必要だった箇所、変えた条件を残します。
同じ台本を覚えたかどうかだけで終わらないよう、次の確認では日付や選択肢を変える方法もあります。その場合は、変えた点を書き添えてください。課題が難しくなった分まで「伸びていない」と評価しないためです。記録を前後で比べる具体的な方法は、会話の伸びを「できること」で振り返る記事で紹介しています。
本人と、次に確かめることを一つ決める
練習後は、できたことを伝えてから次の行動を提案します。「受け取りたい日は伝えられました。次は、希望の時間が難しいと言われた後で、別の方法を一つ尋ねてみましょう」という返し方なら、次の授業で試すことが具体的になります。
本人にも、話しやすかった部分と、まだ言葉にしにくい部分を聞きます。教師が用意した目標と本人が困っていることを照らし合わせ、次の課題と支援の条件を決めましょう。一度できたことをあらゆる窓口でできる力とせず、必要な別の場面でも確かめていきます。
授業そのものが合っているかという相談に広がった場合は、会話の一場面だけで配置を変えず、筆記・会話・自己評価を組み合わせたクラス分けとして考えます。個別の練習を補う判断と、配置を見直す判断は分けられます。
授業中の観察に加えて、別の会話でもどんな応答ができるかを確認したい場合は、J-GRADEのような会話能力の判定を補助材料にできます。大切なのは、資格との違いを指摘することではなく、次の練習を考えるための手がかりを増やすことです。
J-GRADEのレポート例では、できた課題と会話の特徴・所見を読み、「授業で観察したことと重なる点」「別の場面でもう一度確かめたい点」を探してみてください。心理的な原因や人物像を診断するものではないため、話しづらかった理由は本人との対話や授業での観察から考えます。
学校でのデモ・活用相談では、学習者が困っている会話場面と、結果を指導のどこに使いたいかをお知らせください。レポートを本人への説明や次の練習を考える材料として使えるか、具体的に検討できます。
